ハノイリビングの田口です。
ご存じの通り、ベトナムは2月19日の元旦から本格的なテト(旧正月)期間に入っています。
ベトナム国中が仕事から解放される時期です。
今日はお正月2日目、日本で言えば1月2日です。
ベトナムにいても仕方がありませんので、大半の方は日本に戻られるか、タイなどに遊びに出かけられるか、いずれかです。
私のように敢えてハノイに居残る人は少ないかと思います。
そんな中、当社のスタッフHongちゃんから連絡が入りました。
「田口さん、お母さんが是非来てって。今日のお昼どうですか?」
はい、そろそろ来るかと思っておりました。
テト休みに入る前から、Hongちゃんからはそれとなくお誘いの事は耳にしていました。
今年で3回目になります。
私の中でもベトナムハノイで過ごすテト期間中にHongちゃん家の家庭料理をいただくのは、とても楽しみなんです。
今年も冒頭のHongちゃんにお母さん、それにHongちゃんのお兄さんに妹さん、皆さん総出で迎えていただきました。
今年もちゃんと「お年玉」を準備しております。
前回ご招待いただいた時、手ぶらで行くことになり、とても恥ずかしい思いをしたその教訓を生かしてのことです。
細かいお札を揃える為に、外のATMでお金を引き出しました。
そのお札を持ってDaewoo Hotelのロビーへ行き、一枚ずつ予め買っておいたお年玉袋にお札を入れ、準備をします。
そしてタクシーでHongちゃん家へ。
ところがタクシーが全く捕まりません。
Hongちゃんに事情を説明すると、
「分かった、バイクで迎えに行くから待っててね」
結局びしっと着飾ったHongちゃんの運転するバイクで家まで運んでもらいました。
みんな私が来るのを、ご飯も食べずに待っていてくれているとのこと。
少し気が焦りましたが、もうこれで3回目のお呼ばれです。
大分雰囲気も慣れてきているのか、平常心でHongちゃんの家の門をくぐりました。
いつものように、
「Chúc mừng năm mới!(明けましておめでとうございます!)」
拙いベトナム語を笑顔で繰り返し、まずお年玉を渡します。
お母さんやお兄さんにもです。
そして食卓に。
Hongちゃんのお母さんの手作り料理は、本当に美味しいんです。
野菜の煮付けは盛りだくさんで、タケノコの煮付けまでありました。
あとびっくりしたのですが、らっきょうも並んでいました。
思わずHongちゃんに聞くと、
「バインチュン(bánh chưng)と一緒に食べる為にあるのよ」
テト正月のベトナム人家庭の食卓に必ず上がる「バインチュン(bánh chưng)」。
先祖への感謝の気持ちを表す意味で作られる伝統料理です。
餅米に豚肉、緑豆などを材料に作る「ベトナム版ちまき」のようなもので、私は大好きです。
日本人なら醤油やポン酢につけて食べると美味しいと思うのですが、私は断然「nước mắm(ヌクマム)」です。
日本名で「魚醬」と呼ばれますが、小魚を塩漬けにし、発酵させてできた醤油のような味です。
私は香草(パクチー)もヌクマムも、何の苦労もせず受け入れることができました。
何故だか分かりませんが、美味しと感じるんです。
どうも私の舌はベトナム向きなのかもしれません。
今日はHongちゃんのお母さんが特別に美味しいヌクマムを買ってくれていました。
サーモンで作ったヌクマムらしいです。
これがまた濃厚な味で美味い・・・
余りに美味しいので、Hongちゃんにお願いしてお湯で薄めて飲ませていただきました。
ヌクマムのお白湯割りを美味しそうに飲む日本人を見て、お母さんが顔を崩して笑っていました。
何も無理をしていません。
ただ、出汁の味に感動してしまい思わずお願いしてしまっただけです。
少し臭いですけどね(笑)。
貝の実料理や春巻きに鶏肉、それになんと言ってもベトナムの方々はハムが大好きです。
このテト正月の需要を見込んで、長年ハムの製造業を営む家も結構あるくらいです。
しかし売れるのは、ほとんどテト期間中くらいだそうです。
鶏肉もいつもはブロイラー生産のものを食するのですが、テト期間中に食べる鶏肉は特別に「放し飼い」で育てた高い鶏肉を選びます。
確かに実が引き締まり美味しかったです。
ベトナム人にとって鶏肉は、我々が思う鶏肉よりももっと生活に密接に繋がった食材のようです。
お供え物にもよく鶏肉は登場します。
ベトナムの方々は鶏も犬も大好きでよく食べるのですが、結構街中でそれらの「姿焼き」を見かけます。
お尻から脳天まで串刺しにして、手でハンドルを回しながら下からバーナーであぶっています。
思わず顔を背けてしまうのですが、ベトナムの方々が「姿焼き」にこだわるには理由があるのかなと、今日Hongちゃんの家に来て感じました。
お供えをするんですね。ごちそうは先ず。
Hongちゃんの家に限らず、ベトナム人は祖先を敬い奉る文化がとても深く、生活にも色濃く反映されています。
アパートを案内していて思うのですが、どこの個人オーナーのアパートに行っても「神棚」があります。
もしくは、「神棚があったんだな」とわかる跡が残っています。
亡くなったご家族の命日や日本で言うお盆(ベトナムは7月だそうです)、そしてテト正月の前後は必ず家の神棚にお供え物を捧げます。
そして祖先の方々の命日の日も、きちっと覚えていてお供え物は欠かしません。
お供え物を神棚に置いた後、跪いて2度3度額づきます。
額づきながら、手の平を上に向け、「どうぞお供え物をお楽しみください」と言わんばかに捧げ奉るんです。
「祖先の人達が喜ぶようにお供え物をする」
ひょっとして姿形を分かり易いままにお供えをすれば、肉片をお皿に盛ってお供えするより美味しさが故人により伝わり喜んでもえらえると考える文化があるのかもしれません。
ご仏前で額づき祈るお母さんの厳かな立ち振る舞いを見ると、そう感じずにはいられませんでした。
ご飯を食べ終わり、すぐ近くにあるHongちゃん家が管理するお寺にお参りに行きます。
立派なお寺です。
これは親族の為に昨年建立したそうです。
門をくぐり、2階に上がるとご先祖を奉る大きな神棚が3つ並んでいます。
Hongちゃん一族の名が全員石碑に刻まれています。
本家の長男であったHongちゃんのお父さんが、昨年お亡くなりになりました。
今はこの一族のお寺を守るのはお母さんの役割です。
何度も家とお寺をアオザイを来たお母さんが往復されていました。
元旦と2日の2日間。
ベトナムの人達は親族周りをします。
たくさんの親族が昼夜問わず訪れます。
Hongちゃんの一族のように、親族が1箇所に固まって村を形勢するように住んでいるので、来客も通常以上の多さだと思います。
日本のお正月三が日などは、ベトナムと違ってのんびりとしたものです。
親の実家に子供を連れて顔を見せに行くくらいです。
Hongちゃん達が一息つけるのは、お正月3日目以降なのだそうです。
そんな多忙なお正月二日目、その来客が少し途絶えるお昼の貴重な皆さんの休憩時間に、私は呼ばれたことになります。
私にとってもHongちゃんご家族にとっても、特別な日になりました。
Hongちゃんのお寺で見かけました。
これはハノイに来られた方なら、一度ならず良く街中で見かけるものですね。
これはお札を燃やす焼却炉なんです。
なぜお札を燃やすのか。
・・・もちろん本物ではなく、イミテーションのお札ですが。
ご先祖様が天国でお金に困らないように、焼くんです。
焼いて煙となったお札が故人のサイフに収まると考えるんですね。
お札だけではなく、例えば故人が好きだった洋服とか時計とか、全て燃えやすいイミテーションですが焼いて天国に届けるという発想なんです。
命日などに焼いているようです。
「未だWaterサーバーのイミテーションは焼いたことないけどね」
Hongちゃんが笑いながら話してくれました。
私達は死ねば面倒な俗世間とは縁が切れて、悠々と過ごせるところが天国だと考えます。
「そんな世界に旅立てて幸せだね」と考えるようにして、悲しみを乗り越えようとします。
ベトナムの方々との死生観の違いを感じてしまいます。
最後にHongちゃんの応接室に掲げてある木の彫刻画をご紹介します。
何度かHongちゃんの家にお邪魔して、目にはしたことがあったのですが、今日はじっくりと眺めることができました。
何か象徴的な、何かを意図した構図なんだろうと思い、じっと目を凝らして見ていると、横からHongちゃんが説明をしてくれました。
「これは父が大好きだった絵なの」
実際お父さんが探し当て、大事に家に飾っていた木版画です。
この絵の舞台は田舎の農村です。
そこに街から出世をした、その農村出身の人物が自分の出身村に凱旋する時の絵です。
左側に側近の部下を従えて、御旗を掲げながら「どうだ」と言わんばかりの昂揚した「出世人」が描かれています。
その様子を右側の農村の民達がじっと見つめている・・・そんな風に見えます。
誰か実在の人物を模した絵なのかもしれません。
きっとこういう木版画になるくらいなので、この出身村に凱旋したその人物は、人々のために良い治政をし、民の口から長らく語り継がれるような功労者になった人に違いありません。
私はこの絵を見て、ベトナム人の「故郷に錦を飾る」気持の強さを改めて感じてしまいました。
生まれ育った地域で、実力をつけた人物が選ばれて政治と経済の中心地へ出稼ぎに行きます。その選ばれた者の肩には、一族やその取り巻きの人々の期待がのしかかります。
そしてその期待に応えるべく必死で仕事をする・・・
結果一族を代表する人物となり、便宜と少しばかりの幸せを皆に与えることができるようになり、自分自身も充実した人生を全うできるようになる。
今ハノイやホーチミンに地方から出てきている「学生」や「社会人」の人達、また世界中で活躍する越僑の方々は、多かれ少なかれこの木版画に描かれる「故郷に錦を飾る」思いを胸に秘め、日々生きているのではないでしょうか。
テト休みに出身地方へ帰る人達のお土産の多さを見ると、そう思います。
この絵は、
「ベトナム人の皆さんが一番なりたい理想」
その原風景を描いたものなのかもしれません。
帰り、バインチュン(bánh chưng)を2つと、お供え物フルーツChuoy(バナナ)、美味しいヌクマム、それにお年玉までいただきました。
バインチュンを2つはとても贅沢だと思います。
まだテト正月は続きます。
この時期ハノイで限られたレストランと買い物スポットで切り抜けなければいけない私達にとって、このお土産は非常に貴重な保存食です。
Hongちゃん、お母さん、そしてご家族の皆さん、お招きいただき有り難うございました。
今年も皆さんが健康で過ごせるよう、一人の関係者としてお祈りさせていただきます。
今年もよろしくお願いします。
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