ハノイリビングの田口です。
先週の土曜日(8月29日)ハノイ・クリエイターズ・クラブさん主催の「ハノイカルティベートトーク」に登壇させていただきました。
折しも運悪く、その日は独立記念日に向けたパレードの予行演習日。
どこへ抜けようとしても、道路規制ではじき返されます。
途中タクシーから「セオム」に乗り換えても、ネズミ一匹も通さない鉄壁のブロック・・・
なんと講師の私が20分遅刻するという波乱の幕開けとなりました。
会場となったのは、旧市街地内にある「安南パーラー」。
タイ湖を大きく迂回するコースを余儀なくされ、セオムの後ろに跨がり、汗臭いドライバーの体臭に顔をしかめながら走っている最中、
「お客様はおそらくどうだろう・・・たどり着けないんじゃないかな・・・」
そう思っていました。
しかしそんな悪条件にも関わらず、会場に走り込んだ時には、たくさんの方々が整然と椅子に座って待っていただいておりました。
本当に申し訳ない気持と、有り難い気持がごちゃ混ぜになりながら、着くなり説明を開始させていただいた次第です。
この場をお借りしまして、当日お集まりいただいた方々には、感謝申し上げます。
有り難うございました。
さて、皆様にお話したその内容にタイトルを付けると、
「ベトナムハノイの不動産事情とその実態について」
です。
大層な題目ですが、お話しをさせていただいた項目は主に、
- 日本人が住むハノイのエリアと家賃について
- 賃貸アパートを契約する際の注意点
- 仲介業務の実務で経験した様々な問題点について
- 今、ベトナムの不動産は買いか?
でした。
特に今年の7月からベトナムの住宅法が改正になり、外国人でもベトナムの不動産を購入し易くなったこともあり、
「今、ベトナムの不動産は本当に買いなのかどうなのか」
皆さんが一様に疑問に思われていると感じた項目を、今回のトークに差し挟ませていただきました。
事例が少ない中で、いろんな方のお話しを集めながら、私の意見として説明をさせていただいた次第です。
その時お話しした内容を、皆様にお伝えするのが、今回の稿の目的です。
まずは私が思う答えを述べさせていただきます。
「買いたいので探して欲しい」と既に買う気満々のお客様から、買うことを前提としたご連絡を最近よくいただきます。
日本から、シンガポールから、中国から・・・
日本語を流暢にしゃべる外国人からも引き合いをいただきます。
しかし大半の方々は、
「ベトナムは東南アジアの中の一国。シンガポールやマレーシアやフィリピンとそう大差ないでしょ」
こんな風に捕らえている方が多いんです。
しかし、違います。
「ここは一筋縄で行かないベトナムです」
ということです。
結論から申し上げますと、
「少し様子を見ていただく方が良い、買い急がないでください」
これが私の回答です。
「不動産特集」と銘打ったベトナムハノイの雑誌などを見ていると、その投資の魅力を訴える内容が大半かと思います。
そりゃそうです。
不動産業界とすれば儲け話が転がる領域だからです。
私が様子見をご提案する理由は、次の2点です。
- 購入後の登記(レッドノート)の不安
- 購入不動産の売却資金を国外に自由に出せない事情
では、順に詳しく説明させていただきます。
外国人が不動産を購入した事例は、そんなに多くありません。
2009年に試験的に外国人への不動産購入の門戸を開いたベトナム政府ですが、今年に至る6年間でベトナムの不動産を購入した外国人は約130人。
そのうち配偶者がベトナム人の方が約100人。
確実にベトナムで長く生活をする理由のある方が手を出している、そんなイメージを持ちます。
しかし・・・まだまだ数は少ない。
私の知っている、ある日本人の会社の社長さんは、奥様がベトナム人なのですが、ご自身のお金で2010年に不動産を購入されました。
ちょうどベトナム政府が提示した「不動産の買える外国人」の条件を満たしていたからです。
もちろん名義もその社長さんの名義です。
購入手続きが全て過ぎ、役所へ登記手続きに行かれました。
日本でいうと購入した不動産の「権利書」あるいは「登記簿謄本」に当たるものが「レッドノート」と言って、先の写真のような小さなノートです。
このノートに自分の名前が書き込まれ、役所のサインと印鑑が捺されれば、晴れて第三者への所有権(ベトナムでは長期使用権)を主張することができるようになります。
ベトナムの場合「レッドノート」は、不動産の購入手続きをし、全ての代金を支払った後、数年後に役所から交付されます。
代金が未納であったり、不動産の購入代金以外の諸経費(税金や手数料など、通常購入代金の10%くらい)が未納だったりすると、レッドノートは交付されません。
完璧に全ての代金支払をクリアされた者にしか交付されないんです。
しかし、その方は日本人です。
当たり前ですが、全ての代金を支払いました。
そして、役所の窓口で申請手続きをしようと説明すると、
「あなたは外国人でしょ。レッドノートなど交付出来るわけがないでしょ」
全く取り合ってくれなかったそうです。
もう一度申し上げます。
政府が発表した「ベトナムの不動産の購入できる外国人」に適合している日本人が、自分の資金で不動産を正しく購入したのち、レッドノートを交付する担当窓口で「あなたは外国人だから交付などできない」と申請を拒否されるんです。
おかしな話です。
政府が大きく方針を示すが、細かくは各省内の市単位で対応を考える・・・
こんなやり方で進めているのでは、とつい疑いたくなります。
その方は、仕方がないので奥様名義に切り替え、奥様名義のレッドノートが交付されています。
5年経った今でも日本人であるその社長様名義のレッドノートは発行されていません。
お金を出すのは日本人です。
しかし名義はその配偶者にしてレッドノートを獲得するのが確実で間違いの無い進め方だとすると・・・
ベトナムで不動産を買った日本人は、配偶者と喧嘩別れが許されないということになります。
プイッと出て行かれた日には、配偶者と同時に投資したお金も戻って来ないという憂き目に会うことになります。
これは、いわゆる「ベトナムあるある」の一つ。
政府の発表がなされても、末端の役所システムにまで届いていない、血が行き渡っていないという典型的な例です。
末端の役所の窓口担当によっても、言うことが変わったりします。
ベトナムの停滞する不動産市場を外資を使って活性化させるための、今回の法律改正です。
下々の担当者レベルまで、手続きが意思統一されるのを待つというのは、気が遠くなるような時間が必要かもしれません。
しかし、ある程度システムが統一されないと、危なっかしくて手を出せませんね。
外国人に対して「レッドノート」は本当に交付されるのか
この見極めをしてから購入した方が良いというのが私の意見です。
このレッドノートを持つ場合と持たない場合とでは、将来売却するとき、売値が大きく違ってきます。
長期使用権を確実に引き継げない物件(レッドノート無しの物件)は、どう考えても売却時には不利です。
もう少し事例を集めたいと思います。
ベトナム国内の不動産を購入すると言うことは、以前にも書きましたが、ベトナムドン(ベトナム通貨)を持っているのと同じことです。
理由は、売ればベトナムドンになって、口座に振り込まれるからです。
- ずっとベトナムで生活をしていかれるつもりの方
- 更にベトナムで商売を始めたいと考えている方
- ベトナムを起点に、ビジネスを広げて行きたいと考えている方
このような方々は、大きなベトナムドンをキャッシュで手にする意義はあるかと思います。
活動拠点がベトナムだからです。
しかし、ベトナム以外の国に居て、ベトナムへの投資を考えている方は、投資後回収したお金は自国に環流させたいと考えるのが普通です。
そんな方々に申し上げたいのが、
「売却後のお金をベトナム国外へドル送金する場合、それは簡単ではない」
ということです。
いろんな国の方から「ベトナム不動産の購入について」お問合せをいただきます。
「ベトナムでコンドミニアムを買って、賃貸させたいんですが」
こんな問合せです。
どこから投資をされるのか、お伺いすると、大半はベトナム以外の国に居ながらにして投資を検討されている方が多い。
しかし皆さんお気づきになっておられません。
何度も申し上げますが、ここはベトナムです。
シンガポールやマレーシア、フィリピンなどは、簡単にドルを国外に送金できますが、今のベトナムは・・・できません。
唯一できるのは、ベトナム国内の株式市場に投資をし、株を売却した場合、株式投資用に開設した銀行口座から株式売却金をドル送金すること、これは認められています。
これは、ベトナム政府が低迷する株式市場を外国投資家の資金力を利用して活性化させたい為の例外措置です。
株式投資で儲けたお金を、回収できない国の株など・・・
投資対象になるはずがありませんから。
中国を皮切りに、シンガポール、マレーシア、フィリピンと海外投資家の資金は、確実に投下され、結果不動産バブルを招きました。
インドネシアは国策で外国人の国内不動産投資を認めていません。
ベトナムの不動産市場は、未だ諸外国に手を付けられていない「純粋無垢」な状態にある、東南アジアでは珍しい市場です。
では買いか?
今日申しあげた2つの問題点を振り返ってください。
ベトナム政府が発表した「不動産投資の自由化」がどこまで自由になったのか、もう少し時間をかけて見極めないといけないと思います。
この資料もカルティベートトークで使用させていただいたものです。
先ほどご紹介しました「2つの問題点」をお客様に説明させていただいた時、次にこう切り出される方がいます。
「ベトナム各地で売りに出されているコンドミニアムは、最初は安値で、あと完成に向かう過程で値段が上がるけど、最初に青田で仕込んで、完成後に売り抜けば利ざやを稼げるでしょ」
ベトナムに20年くらい住んでいないと、こんな話自信たっぷりに言えないですね。
確かに、ベトナムの不動産は「青田売り」です。
これは、完成して形が出来上がる前から(土地ならしの基礎工事が始まるもっと前から)売り出す販売方法のことです。
別の場所にモデルルームを作り、案内して申込みを受け付け、住戸の契約率を上げていきます。
日本ももちろん青田売りが基本です。
マンションが完成する前から売り出しますが、しかし販売価格に変化などありません。
資料のパンフレットに書かれた分譲価格がつり上がっていくなど、絶対あり得ないことです。
が、ここベトナムは上がって行くんです。
もっと言いますと、一般公募受付のもっと前から水面下で売りに出されているケースが多い。
しかしそれはインサイダー取引と同じで、ベトナムの一般人でも知り得ない世界です。
開発に関わる「関係各位」のみぞ知る。
これは「イレギュラー取り引き」です。
購入時は手付金を入れるのが習慣ですが、その手付保証も「イレギュラー取り引き」であるため付きません。
イレギュラー取り引きで手にした購入の権利を売却する取り引きも、当たり前ですがイレギュラー取り引きになってしまいます。
まさに魑魅魍魎が跋扈するドローっとした時期に物件を安く抑え、値段が完成に近づくにつれ上がって行ったあたりで同じく魑魅魍魎を相手に売り抜き、利ざやを稼ぐ・・・
こんな取り引きに対し「儲けは固いのでは」と言われるお客様には、
「イチかバチか、行っときますか」
などと、口が裂けてもご紹介できません。
止めておきましょう。
投資にはやるお客様を停めるのも私共仲介業者の仕事です。
ベトナム政府とすれば、今年は「不動産投資元年」として、諸外国の投資を受け入れたいと考えているかと思います。
また、海外に出た越橋さんたちの有り余る資金も、充てにしていることでしょう。
しかし単純に申し上げたい。
「外国人投資家を受け入れたいのであれば、もうちょっと制度をちゃんと整えてくれ」
これだけです。
日本では整合性がとれるのですが、ここベトナムではきめ細かく考えられていない為、窓口の妙な解釈が介在してしまうことになったりもします。
ベトナムでの不動産投資の難しさは、「とりあえず先走る中途半端さ」に寄ることが多いということです。
それでも腹を決めて道無き道を突き進む選択をしてくれる先駆者が居たとして・・・
お陰で出来上がった「けもの道」を、懐中電灯で照らしながら、手を繋いでゆっくりと歩むのが良いのか・・・
危険とは裏腹な利益欲しさに、最初に猛進する選択をするか、
多少踏み固められた道を安全優先で歩むことを選択するか、
皆様次第ですが、私は後者をお勧めします。
いかがでしょうか。
◆少しでも皆様のお役に立てれば嬉しいです。
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まだ買い急ぐなとのご意見大変参考になりました。現在ホーチミン市7区のクリード アンギアの共同事業である「Angia Skykine」21階の82平米の物件を1350万円で検討しております。法律は去年施行されたようですが、まだ未整備な状況でしょうか?率直なご意見などをお聞かせいただければ幸甚です。
後藤様
お問合せいただきました。
また、ハノイリビングのブログサイトをご参照いただき有り難うございます。
ホーチミンでの外国人に開かれた分譲アパートを購入された個人に、権利書の代わりになる「レッドノート」が発給されたと耳にしています。
ちらほらと問題ない物件が現れているようです。
ただ、それがご指摘の「Angia Skyline」にも適用されるのかどうか、これは調べて見ないといけません。
ハノイでもホーチミンでも買ったは良いが、後になって問題が生じ、レッドノートが発給されないケースが見受けられます。
一番多い理由は、
建物を建てる前に国に申請した建築確認書と同じ内容の建物になっていないので「違法建築」だと認定されるケース
です。
日本では考えられないのですが、こちらベトナムではこれが結構あります。
ベトナムの分譲スタイルも「青田売り」ですね。
更地の状態で購入する場合と、建物が完成してからとでは、購入価格に差がでます。
ホーチミンでもまだ建物が建っていないにも関わらず、全額決済を求められるケースがあると聞いています。
そういう買い方の方が安くなるからですね。
青田で販売していく、その分譲代金を更に建築費に上乗せして建物を建てていく。
何やら自転車操業のような建築の仕方ですが、ベトナムの場合このやり方が一般的です。
建てる前から投資者を募るんですね。
その売却金をある程度当てにしている。
しかし予定を大きく下回る当初の売れ行きだと、お金がショートすることになります。
そうなると、予定していた建築設計通りに建てられなくなり、建築確認図面と同じ建物ではなくなる可能性が出てくる。
竣工間近の建築検査や消防検査で引っかかるんです。
そして、予定通りの建物ではない為に国が認める完成物ではなくなる。
で、レッドノートは発給されないと言う結果になります。
まだあります。
これはハノイで実際あったのですが、建物が申請通りに建ち上がった。
しかしレッドノートは発給されない・・・
その理由は、
「土地は当初予定していた複数の地主の話合いでまとめて一筆になる予定だったのが、話合いがこじれて合筆されていないため、住所が一つになっていない為NG」
こんなケースもありました。
青田で買う時点で、建物を正しく建ててくれるかどうか、またそれ以外で予定していた話合い全てを上手く調整してまとめることができるかなど・・・
投資する我々には予想もできないことです。
ご指摘のアパートはいつ完成するのか知りませんが、当初予定通り建築ができて、土地の問題も一切解決されているということがわかるのは、建物が完成してからということになります。
結論から言いますと、どういう物件でも青田買いをされるのであれば、リスクは伴うということ、これを念頭に入れて動いた方がいいということです。
なんとも突きはなしたような言い方で恐縮なのですが、しかしこう言うしか無いんですね。
「未整備な状態」というより、人的被害ですね。
避けようがありません。
そう言う場合投資者を守る保険が有るはずなんです。
確かこういう被害が今まで何度もあり、ベトナム人の富裕層が損して訴えが結構でたんでしょう。
マンションの投資会社は、購入者のために期限付きで購入者が支払う手付金などを保証する保険に加入しなければならないはずです。
ただこれが義務化しているとはいえ、実際どれだけ守られているのか、分譲会社にしっかりと確認した方が良いかと思います。
ご参考にしてください。
ハノイリビング
田口
以前の記事へのコメント失礼いたします。
妻がベトナム人で、ホーチミン市内に店舗物件(中古)をベトナム人から購入予定です。外国人は登記できないと思いますので、妻名義で登記、妻の私的財産した場合、私は何らかの手続のため渡越する必要があるでしょうか?原資は私が日本から海外送金し、贈与に当たらないよう物件を担保に貸し付ける予定です。私自身が海外渡航できない事情があり、教えていただけると助かります。
店舗をいくらで買われたのでしょうか?
その額にもよりますが、数千万円くらいであれば、ベトナムに行く必要はないかと思います。
ただ、その物件名義は奥様単独になりますね。
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