ハノイリビングの田口です。
「ああ、田口さん。どうでもいい話なんですがねー」
きっかけは、忘れた頃にふいに掛かってくる「紀伊」の小林さんの電話でした。
前回のハイフォン先の「Cat Ba(カットバー)」島行きも、きっかけを作っていただいたのは、小林さんからのさりげない電話からでした。
大変有意義な「一泊旅行」となったことを考えると、小林さんからの電話をなおざりにはできません。
「5月31日なんですけどね、日本で流通している『割り箸』やら『水引』やらを製造販売しているベトナムの超優良企業があるんですが、そこがね、10周年記念パーティーをやるんです。田口さん招待するから来ないですか?」
割り箸?水引?水引って結婚式やお葬式の慶弔時に、お金を差し入れる袋の飾りでしょ。
そんなものをハノイで作っている会社がある?どこで?
なんで小林さんが俺を招待する??
最初の話だけでは全体象を掴めないのが、毎度の事ながら小林さんの話の傾向です。
聞くと、
「ああ、ハノイの北の果て、中国国境の手前、Tuyen Quang省という美人の名産地で有名なところがあるんですけどね、そこに『Phuc Lam』というベトナムの会社があります。そこの10周年式典のケータリングを任されたんで我々行くんですよ。
田口さんも紀伊と寛のメンバーということで潜り込んでもらえたらOK」
そういうことか。
ハノイ北部の割り箸工場の10周年記念式典に、名指しで俺が呼ばれたら、そりゃ奇跡だよ。
どうも式典の食事一切を「紀伊」さんと「寛」さんで取り仕切るようです。
「もうね、400人くらいのケータリングだからね。『ノルマンディー上陸作成』ばりの気合いの入りようで(笑)」
400人分のケータリング!
いつもの「がはは笑い」を受話器越しに聞きながら、確かに鼻息が荒くなる話だ、と納得しました。
さすがは小林さん。
顔の広さとキャリアの長さで大型案件をしっかりと抑えています。
まずこの手の依頼は、味が美味くないとお声が掛からない。
「美味しい」と言われ続けて長い料理店にしか受けることのできないオーダーです。
それにしても・・・
日本へ大量の割り箸と水引を輸出し続けるベトナム企業ってどんな会社なんだろう?
小林さんに聞くと、
「Tuyen Quang省の地場の地域の人達だけでやっているんです。
この『Phuc Lam』という会社だけでも、大変な経済効果があるみたい」
話を聞いてすぐに興味が湧いてきました。
小林さんへ「行きます」と即答してから暫くして招待状が届きました。
日本人顔負けの挨拶文。
超優良企業ともなると、完璧な日本語を駆使できるスタッフを抱えているものなんだと感心して話をすると、
「これ、俺が書きました。がはは〜」
なんで小林さんが書くの(笑)
しかし何でも引き受ける人です。
招待状にハノイからの行き順も記載されていました。
うーん、ベトナム語なのでよくわかりません。
と言うか、行ったことのないルートです。
招待状の封筒にある会社名と住所をご紹介しますと、
- 【会社名】Cong Ty Co Phan Phuc Lam
- 【住所】Lo A2 – Cum Cong nghiep An Thinh Xa Phuc Thinh – Huyen Chiem Hoa – Tinh Tuyen Quang
となります。
しかし、Google Mapで検索してもヒットしません。
全くのピンポイントではありませんが、大体の場所をご紹介しておきます。
とても遠そうです。
夜の9時半に紀伊に集合し、小林さんと「寛(かん)」の料理長山田さん、それに紀伊、寛のそれぞれのスタッフ総出で、マイクロバス2台をチャーターして向かいました。
南方面のタインホア省Nghi Sonへは結構行ってますので、それよりも近いだろうと想像していましたが・・・
なんとホテルに着いたのは、深夜の1時過ぎ。
高速を降りてからが長かった。
前日から既に先発隊が現地に入って準備をしているとのこと。
しかし今日の夜も「紀伊」と「寛」は開店営業しています。
だから少しすく夜の9時からの出発となったのですが・・・
それにしても何十人もの人員を一気に揃え、遠方へ向かわせ、その間1日開けても予備隊で2店舗をこなせる小林さんの人員配備力って・・・凄い。
まさに神業です。
これができるハノイの日本食レストランはそうは無いだろうと思います。
その日はそのまま2人部屋のホテルで夜を過ごしました。
ニワトリは早朝泣くものかと思っていましたが、深夜の3時過ぎ頃から泣くんです。
お陰で眠れませんでした(泣)。
さて、朝起きてスタッフの皆さんと現地へ向かいます。
暫く走ると目的地の「Phuc Lam」が見えてきました。
ここで簡単に私がお聴きした「Phuc Lam」という会社のことを、皆さんに分かり易くご説明します。
2006年創業の会社です。
ベトナム資本100%のローカル企業。
しかし、ある日本企業さんがベトナムのJETROを通じて、
「ベトナムで安く割り箸と水引を作ってもらえる会社は無いものか」
全くこれと同じ打診内容だったのか定かではありませんが、こんな感じだったのかと想像します。
そしていろんな候補があったかと思いますが、この「Phuc Lam」が手を挙げました。
しかし最初は日本側が求めるクオリティにはほど遠く、設立後3年間は1本の割り箸も出荷できなかったそうです。
日本側は、今までは中国産のものを使っていましたが、中国の人権費の高騰で採算が合わなくなり、仕入ルートをベトナムに変更した経緯があります。
そう簡単に仕入先を切り替えるのもコストが掛かります。
何度も発注元の日本企業の社長さんがベトナムに足を運び、根気よく技術指導を続けました。
今では大量の高品質な製品を出荷できるところまでこぎ着けています。
「血のにじむ努力」。
ちょっとベトナム人がやっている会社と、どうもイメージが一致しない言葉です。
ベトナム企業の私のイメージは、誠に申し訳ないのですが、
「マーケティングもそこそこに、勢いで会社を作ってみるも、採算合わずにやむなく撤退」
こんなことを繰り返してばっかりいるように見えます。
しかし今回、日本の「おしん」ばりの苦労を重ねて大成した会社を、私は初めて目の当たりにしました。
勿論、彼らだけの力ではありません。
日本側の技術指導を受けての成功であることは言うまでもありません。
しかし、日本側企業の細かいオーダーに答えるために、莫大な設備投資をし、工場を作り、人をかき集め、出荷できる形をつくった経営人に先見の明があったというべきでしょう。
だって、割り箸と水引です。
割り箸はともかく水引なんて、ベトナム人にはちんぷんかんぷんなはずです。
おまけにどう考えても100%自動化はできそうに無い製品です。
「手作業で採算が合うのか・・・」
それを当時の経営者は、Tuyen Quang省のほぼ山岳地帯に住む近隣の人達を駆り集め、設備を整え、連日の編み込ませ方の徹底訓練を経て、出荷ベースに持って行っている・・・
おそらく貧しい田舎の若者達、そしてその家族の生活がかかっています。
創業者の背中には、雇用主としての責任、また発注元の日本企業に対する責任が、想像を超える重さでのしかかっていたことと思います。
オートメーション化できない隙間を、一人一人の工員さんの手作業で埋め合わせていく仕事です。
やはり社員さんの小さな創意工夫が効率を上げ、利益を生み出して行くのだと思うんです。
そう考えると、社員の皆さん全員でつかみ取った成功だと、確信しました。
多額のODA投資で大きくベトナムに関わるやり方とは別に、企業レベルで利害関係をマッチングさせ、お互い協力し合って「出荷受け入れ体制」を作り上げていく。
こんな中国との国境から近い片田舎のTuyen Quang省で、日越の熱い取り組みが積み重ねられていたとは、思いも寄りませんでした。
当日はJETROのご担当者様、また日本側の企業様の社長さんも同席され、満面の笑みで拍手を送られていました。
今回折角行かせていただいたので、 皆様にもその雰囲気を少しでもお伝えしたい。
そう思い、会社の敷地内や式典の様子、また割り箸の制作工程をしっかりとビデオに撮らせていただきました。
大量の出荷員数です。
日本で普通に使っている割り箸やコンビニで売っている水引などは、意外とこの工場から出荷されたものが多いのではないでしょうか。
この工場から出荷されるお箸の商品名は「元禄箸」という渋い名前です。
ダンボールにも書かれているように、原生林からではなく、植林をしながら生産用材木を確保している・・・
苦労の歴史を感じます。
さて、今回のもう一つのメインイベント、紀伊と寛の共同ケータリングサービスです。
凄い盛況でした。
そりゃそうでしょう、美味しいはずです。
宴の後、午後3時。
後片付け部隊を残し、先に小林さん、山田さんと一緒にバスに乗り込みました。
彼らは今日の夜もまたお店が待っています。
本当に・・・タフでなければこのケータリングサービス、できませんね。
お二人とも既に相当お疲れのようでした。
帰りの道中、同じTuyen Quang省にある大規模な韓国のアパレル工場前を通りました。
行きは夜だったので見逃してしまったようです。
広大な敷地に3,000人は優に雇用していると、小林さんに教えてもらいました。
「韓国企業にTuyen Quang省の人達が3,000人・・・」
着々と、我々の分からない隙に、ベトナムへ布石を打つ韓国企業。
まだ日系企業は見向きもしない場所です。
また、その近くに中国の製紙工場が、同じような規模の敷地に操業しているようです。
有害な廃液を垂れ流ししながら・・・
結構問題になっているようです。
韓国と中国が日本のタンロン工業団地にも無いような大規模工場を、なんとTuyen Quang省で稼働させている。
「中国人韓国人はどこに住んでいるのか」と聞くと、
「工場の中か周辺のボロアパートだろうね」
と言います。
自分たちの生活水準など度外視し、利益採算至上主義のもと、少しでも人権費が安いエリアを選らんで進出してきている。
なんとも薄気味悪い話ですが、しかし確実に彼らはアジアで勝利する為に意志決定している、そう感じざるを得ません。
ベトナムにはここTuyen Quang省のような「未開の有効地」がまだまだ有ると思います。
物流さえクリアすれば、ものつくりの拠点は無尽蔵にあるかと思います。
問題はそこに住む人達への教育。
もちろん僻地へ行けば行くほど安い人権費で回すことができますが、しかし大卒者は数えるほどしかいないかもしれません。
今回ご紹介した「Phuc Lam」」さんの場合のように、経営者さんの熱意と技術支援する日本企業側の熱意が噛み合えば、学歴の壁を越え、生産拠点になり得るということを理解出来ただけでも来た甲斐があったと思います。
「どうでも良い話なんだけど〜」
と言いながら誘っていただいた小林さんに感謝したいと思います。
どうでも良いどころか・・・有意義な1泊出張でした。
最後に、今回のケータリングサービスを引き受けられたハノイの名立たる日本料理店「紀伊」と「寛」の連絡先をご紹介しておきます。
両店とも、何を食べてもハズレ無しのクオリティです。
- 【レストラン名】和食処「紀伊(きい)」
- 【住所】166 Trieu Viet Vuong str, Hai Ba Trung Dist, Hanoi
- 【連絡先】04 3978 1386
- 【日本人担当】小林社長さん
- 【営業時間】※日曜定休
・ランチ:11:00〜14:00
・ディナー:17:00〜22:30
- 【レストラン名】くつろぎ処「寛(かん)」
- 【住所】322 Ba Trieu Str, Hai Ba Trung Dist, Hanoi
- 【連絡先】04 3974 7902
- 【日本人担当】山田料理長さん
- 【営業時間】※土曜定休
・ランチ:11:00〜14:00
・ディナー:17:00〜22:30
いかがでしょうか。
皆様にも是非情報共有していただければと思います。
◆少しでも皆様のお役に立てれば嬉しいです。
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トゥイと申します。
貴重な記事を読ませて頂き、ありがとうございます。
早速でございますが、Phuc Lam会社に連絡したいのですが、
ネットで調べてた電話番号を掛けましたら、繋がっていませんでした。
私はベトナムで割り箸を製造している会社を探して、輸入したい日本会社に紹介したいです。
宜しかったら、Phuc Lam 会社の連絡先をご教示頂けますと、ありがたいです。
よろしくお願いいたします。
Thuyさん
ご連絡ありがとうございます。
つながりませんか?
わかりました、Thuyさんに直接ご連絡させていただきます。
ハノイリビング
田口
フォンと申します。
貴重な記事を読ませて頂き、ありがとうございます。
ネットで調べてた電話番号を掛けましたら、繋がっていない、メールをお送りいたしましたが全く返事が来ていないです。
私は水引を作っているベトナムの会社を探して、ベトナムから水引を輸入したい会社を紹介したいです。
宜しかったら、Phuc Lam 会社の連絡先をご教示頂けますと、ありがたいです。
フォンさん
もうメールで回答済みですね。
回答遅くなり申し訳ありません。
とても有名な会社です。
ご連絡していただければと思います。
宜しくお願いします。
ハノイリビング
田口