年老いた親を日本に残して単身赴任するということ

ハノイの新年、初日の出を拝む

ハノイの新年、初日の出を拝む



ハノイリビングの田口です。

えらく長い間ご無沙汰をしてしまいました。
「te to teの阪下さん」のくだりを書いて以来、久方ぶりの更新です。
大変お待たせいたしました。

また、忙しかったから、などと言い訳をすることになるのですが・・・
例年ならベトナムの旧正月に向けて、仕事量は終息していきます。
日本人がベトナムにいる人数に合わせて暇になっていくのが通例なのですが、今回テト休みに入る前にも関わらず、何故だか多忙を極めるようになり、バタバタのままテト休みに突入しました。

2012年のテト休みから続く、毎年恒例の「私のハノイ当番」。
日本の正月に合わせて年末年始は日本で長めの休みを取らせていただく代わりに、こちらの旧正月期間は「出勤」することにしているんです。
スタッフは勿論全員休みです。
私一人ハノイのアパートに残り、携帯電話を握りしめてぼーっとするのが「ハノイ当番」です。
気楽と言えば気楽なのですが、不意に掛かってくるお客様の電話対応にも激烈なものがあります。
掛かってくるはずの無いテト休み中のお客様の電話ほど、恐ろしいものはありません。

「あのー、テト期間中空いている日本食レストラン知りませんか?」

これはまだ可愛い方です。

「バスルームのお湯タンクが爆発して、熱湯が天井から滝のように・・・止まりません」
「エレベーターに閉じ込められて・・・どないかしてくれ〜」

のけ反ってしまいそうになる、待ったなしのクレームが時々あります。
こういう究極対応をするのが私の例年の勤めです。

まあ、何はともあれ・・・ドタバタのまま、なだれ込むようにテト休みに突入しました。
あーやれやれ・・・
とりあえずやり残した仕事を片付け、ゆっくりと考えなきゃいけないこれからのことを、誰の邪魔をされずにまとめようと決めました。
気になっていた溜まっているブログの更新も、一気に書き上げよう。
また、3月に開催予定のJBAV生活サポート委員会主催「ベトナム生活セミナー」の原稿作りもこのテト休み中にやっつけようと計画していました。

あと一つ。
「今年こそは真っ昼間のNguyen Chi Thanh通りに大の字で寝そべる写真を撮ってやろう」などと、しょうむ無い計画まで考えていた時です。
できれば鳴って欲しくない携帯が・・・鳴ります。
掛かってきたのは、なんと私の嫁からでした。

「いつもはLINEメッセージなのに、電話?」

嫌な胸騒ぎを覚えながら電話に出ると、慌てた様子で嫁が、

「お父さんが亡くなったって・・・、お母さんに電話してあげて・・・」

テト休みのプチ幸せ計画が、一瞬にして吹っ飛びました。
いつかは来ると覚悟をしていたことが、いきなり飛び込んできました。

慌てて実家に電話を入れます。
うろたえる母親を励ましながら、一部始終を聞きました。

いつものように足の悪い母に代わり、買い物に出かけた親父。
好物のコロッケをコンビニで買い、戻ってきてトイレに入り・・・
なかなか出てこないので母が心配してトイレの扉を開けると、そのまま母に寄り掛かるように倒れてきたそうです。
搬送された病院で心臓マッサージを受けるも、そのまま意識が戻らず、旅立ってしまったと。

「お父ちゃん、死んでしまったみたいや・・・」

母のかぼそい声に、はっと我に返りました。
今、救わないといけないのは残された母親だと。
最近、少し痴呆が入ってきている母だけに、心配です。
嫁にすぐに実家へ走ってもらうよう連絡し、部屋のソファーに座り込んでしまいました。

昭和9年生まれの両親。
今年で82歳です。
いつお迎えがくるか・・・
いつ来てもおかしくない、そんな年齢です。

同い年の両親ですが、親父の方が長生きするんだろうと、なんとなくそう思っていました。
長く苦労をしてきた母親の消耗が、親父に比べて顕著に思えたからです。

無口でバイオリンが好きだった親父とふれ合った思い出が、次々と浮かんできました。
不器用で母親と喧嘩ばかりしていた親父は、いつも言い負かされていました。
口下手な親父ですが、根は優しく、私と遊ぶことが唯一の息抜きで、何より楽しみだったと母から聞いたことがあります。

「そのうちいっしょに酒でも飲みに行こう」

親父とも何度か会った時に交わした言葉でしたが、結局実現しないままになりました。
無口な親父と酒を飲むことを億劫に感じ、つい後回しにしてしまっていました。
そしてそのままハノイへ。
それっきりです。

「もうちょっと、息子とふれ合いたかった・・・」

口には出さないけど、親父はそんな思いを持っていたのかもしれません。
うつむいて目を閉じると、泣けてきました。

年老いた親を残し、海外赴任をするということは、ほぼ親の死に目に会えないということ。
覚悟をしておいた方がいいかと思います。

父親をなおざりに考えていた私に、神様が鉄槌を下したのかもしれません。
「父親とのふれあい」に頓着しない私から、「じゃーもういいですね」と父を取り上げてしまったのかもしれません。

「親の死に直面しても後悔しないようにするって・・・海外赴任が長くなればなるほど、それは難しい事なのかもしれない」

親父に対して「やり切った感」が無いだけに、ため息しか出て来ません。
逆に、病に冒され入退院を繰り返すような事も無く、全くお金を掛けず手間掛けず、静かに逝ってくれた親父に感謝をしなければならないくらいです。

しかし・・・感傷に浸っている場合ではありません。
その後心配になって母親に電話をした時、

「ああ、お父ちゃんが居ないんよ。携帯に電話しても出えへんし・・・なんでやろか」

親父の死を受け入れられないのか、母の意識が虚空を彷徨っています。
危険を感じました。
今の母親に喪主が勤まる訳がない。

まず・・・帰らなきゃ。
今はテト休み。
チケットを取る、取れる??

こうなるとテト中忙しいはずのマダムHuyenさんに電話をしてお願いするしかありません。
電話に出たHuyenさんは、瞬間に状況を察知してくれて、手配をしてくれました。

電話を切って、暫くぼーっと窓から外を眺めました。
つい昨晩、旧正月を迎えたばかりのハノイの春節花火を、濛々と夜空に広がる硝煙の臭いと共に思い出しました。



ビールを飲みながら、面白がってスマホで撮影した映像です。
部屋の窓から眺めた新年を祝う花火が上がった日、つまり日付が変わった旧暦元旦が、まさに父親の命日となりました。

翌日スタッフのファインプレーで関空との直行便往復チケットを取ってもらえた私は、空っぽのスーツケースを引きずって日本へ帰国。
小さな家族葬でしたが、無事親父との別れを済ませることができました。
その後、役所手続きを葬儀屋さんのアドバイスで対応することとなります。

  • 親父の死亡届から健康保険の失効手続き
  • 社会保険事務所にて親父の年金を母親の口座へ振り込む諸手続き
  • 市からの弔慰金を受け取る手続き
  • 母親の介護認定を受ける為の手続き

結構やることが多く大変でした。
Huyenさんに連絡し、日本滞在期間を更に5日間延長できるよう、航空券チケットを再発行してもらいました。
そしてなんとかかんとか・・・役所手続きを完了させることができました。

しかし、これから一番気を使わなければいけないことは、残された母親の心のケアです。
これは母が死ぬまで、長男の私が真剣に取り組まないといけない事。
「仕事をこなすように」、ではありません。

  • 母が死にものぐるいで私を育ててくれた、子を想う親の愛情の深さに負けないくらい
  • 母が寿命を縮める思いで痴呆症の両親を最後まで看取った、その孝心の篤さに負けないくらい

気持を込めて、母に寄り添わないといけない。

母は気持を込めて、私と自分の親に向き合ってくれました。
その母を老人ホームに放り込んで終わり、などとお金でカタを付けるような処置をすれば、一生消えない後悔を残すことになるかもしれない。

母は長年介護保険料を支払続けていますので、市の福祉サービスを利用しない法はありません。
しかし公共サービスに頼り切りでは、母に対して申し訳なく、また私の気持ちが許せない。
いつ母にお迎えが来ても後悔しないように、やり残したことの無いように、ちょっとずつ母の希望を叶えてやらなければなりません。
勿論「単身赴任の壁」を言い訳にせずに、です。

今回ふいに見舞われた「親父の突然死」。
「人の命の儚さ」を身を持って教えてくれたようなあっけない旅立ちでした。
その弔いをしながら、同時に「親の死を迎える為の準備」という、明らかに優先順位を高くしなければならない「課題」を、親父が私に突きつけてくれたのかもしれません。

「どうすればいいのか、ベトナムハノイに居ながらにして・・・」

しかし、82歳になっても病気もせず長生きしてくれている母親が未だいるなんて、贅沢な悩みなのかもしれません。

「親孝行したい時に親はなし」

そうではありません。
私は幸運にもまだ間に合うんです。
親孝行が未だ出来る。
幸せなことだと思わないといけないですね。

久しぶりの記事が親の死に目に会えなかった話で、何と言いますか・・・大変恐縮です。
さて、次回からはベトナムハノイに住む皆様にとって役に立つ情報を発信していこうと思います。

ハノイリビングのスタッフも入れ替わっております。
詳細は近日中にご説明致します。

今年もよろしくお願いします。

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田口 庸生

田口 庸生 の紹介

初めまして、「ハノイリビング」営業担当の田口(たぐち)です。 日本より初めてベトナムのハノイに着任された日本の皆様、 愛するご家族を日本に残し、初めての「海外単身赴任」をこれから経験される皆様、 快適なハノイでの生活を満喫していただくために、皆様の「お住まい探し」から「入居後のサポート」まで一貫した「窓口対応」を請け負います。 「ベストマッチ」を合い言葉に・・・ どうぞお気軽にお問い合わせください。 お待ちしております。
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年老いた親を日本に残して単身赴任するということ への2件のコメント

  1. 森井健一 より:

    スタッフ独立ですか?ベッターの裏表紙に...

    • 田口 庸生 田口 庸生 より:

      森井様
      いつも当ブログをご参照いただき有り難うございます。

      そうですね。
      我が社で働いていましたHongは旦那さんの会社の仕事を手伝いたいと言うことで退職しました。
      日本人を置く余裕は無いようですので、彼女が一人で日本人相手に仕事をしているようです。

      長く働いてくれたのですが、私とすれば更に組織を強化する為にHongではできない業務をこなせるスタッフをこの度迎え入れることにしました。
      ちょうど良い人員切り替えのタイミングだったかと思います。

      これからは賃貸物件の紹介だけではやっていけません。
      お客様のベトナム進出をお手伝いする業務や、投資先として見込んでいる企業のリサーチ業務、また売買も含めた幅広いサポートを求められる時代になってきたと感じています。

      このあたりは引き続き当社のブログサイトをごらん頂ければ、ご理解していただけるかと思います。
      Hongの会社ももし良ければ声を掛けてやってください。

      今後ともよろしくお願いします。

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