ハノイリビングの田口です。
さて、ベトナムも大型連休に突入しました。
私も久しぶりに日本へ。
新人の橘(たちばな)君とTinh(ティン)ちゃんも戦力として活躍してくれるようになってきたので、私もこうして何の憂いも無く帰国できるようになりました。
有り難いことです。
今日は帰国の際に私が経験した怖い話をいたします。
それはノイバイ空港へ向かう最中に起きました。
私の乗っていたタクシーが人を跳ねたんです。
凄いスピードで・・・です。
自動車教習所のビデオで、車と人との衝突の瞬間映像は見たことがあります。
しかし、生で見たのは生まれて初めてです。
その経緯を簡単にご説明します。
連休が始まる初日の朝、私は日本に戻る為アパートを出ました。
するといつもよく使う会社のタクシーが目の前に待機していました。
私は今までノイバイ空港へはエアポートタクシーを使います。
しかし私のような空港行きのお客を捕まえようと、このドライバーは朝から待ち構えていたのでしょう。
まさに狙い澄ましたような「朝駆け」です。
そのドライバーは勢いよく車外に飛び出してきて、ニコニコ笑いながら私のスーツケースをトランクに入れようとします。
半ば強引なサービスだと思いましたが、私も本職が営業ですので、彼の朝からの「朝駆け営業」に敬意を表し、またニャッタン橋が出来て早くなったので、メーター通りでも今まで払っていた料金と大して変わらないだろうと判断し、そのタクシードライバーに委ねることにしました。
しかしこれが判断ミスでした。
いつも通りノイバイ空港までの行き来に慣れているエアポートタクシーのドライバーを使うべきでした。
そのタクシードライバーは若いお兄ちゃんでした。
若さの勢いか、良く飛ばすんです。
ハノイ市内を抜ける際も、前につかえている車やバイクに遭遇するとぎりぎりまで詰めより、パッシングしながらクラクションを鳴らしまくります。
猛スピードで右へ左へせわしなく車線移動しながら、市内を抜けようとします。
嫌な予感はしました。
しかし、私もベトナムで3Gがつかえる残りわずかな時間を無駄にしたくはありませんでしたので、iPadでメールを打ったり新聞を読んだりと忙しく車中の時間を使っていました。
シプチャーの近くから新しくできたニャッタン橋へ通じる、道幅の広い綺麗なVo Chi Cong通りに出たとき、そのドライバーは一気に加速します。
すかっと伸びる広い道。ここから一気に空港へ。
連休の初日の朝なので、車もまばらでした。
私もiPadから目を離し、今までのハノイにある道とはまるっきり様相の違う「日本の技術を結集した道」に視線を向けました。
毎回この通りに入ると、その美しさに手を止めて外の景色を眺めてしまうんですね。
と、そのときでした。
右ななめ前を併走するように走っていた車の影からすーっと自転車を漕ぐおばさんの姿が出て来ました。
そのおばさんは道を走る車など気にする様子も無く、まっすぐ前を向いて横切ろうとしています。
そしてそのまま自転車は、アクセル全開のタクシーの全面にゆっくりと進み出てきます・・・
この瞬間、もう避けられないことははっきりと分かりました。
今出ているスピードと、おばさんとの距離を考えても、絶対止まれないタイミングでした。
急ブレーキむなしく、車のフロントガラスに大きなヒビを残し、自転車ごとはね飛ばしてしまいました。
ドライバーと一緒に外に飛び出すと、中年のおばさんが飛び散った食材の中で倒れていました。
と同時に十数人の近隣の方々も掛け集まってきました。
近くの屋台か何かでご飯を出す仕事をされている方でしょう。
フォーの麺や小さなカニが路面に散らばっていました。
動き回る小さなカニを眺めながら、どうすれば良いか考えました。
この国は119番の救急番号があるのですが、まず電話をしてもなかなか来ないということは周知の事実です。
発見者かその場に居合わせた人の車で近くの病院へ送り届ける「市民の救急対応」にかなり依存することは聞いていました。
私はいざというときの為に「WellBe(ウェルビー)メディックサービス」に加入しています。
ただしWellBeサービスは救急対応で救急車両を手配するところまではしなかったと思いましたが、さすがに気が動転していました。
藁にもすがる思いで電話を掛けようとカバンをさぐったのですが・・・
よく考えれば、私の携帯はお客様との緊急時のホットラインになっており、ベトナム国内だけしかつかえないので、会社の橘君の机に置いて帰国の途についていました。
今私は電話の出来ない状態であることを思い出しました・・・
どんな状態であれ、やはり携帯電話は「携帯」しなければなりません。
ドライバーが何をしているか、目を向けると、真っ青な表情で集まってきた人達と話をしています。
彼にすれば、急に車道を自転車で横切ろうとした相手が悪いと言いたいところでしょうが、しかし明らかにスピードの出し過ぎです。
あのスピードでは、安全な車も「鉄の凶器」です。
今まで飛ばすドライバーはたくさんいました。
多少急いでくれるくらいがちょうどいいのですが、今日のドライバーは明らかに「タイムを競うスプリント選手」さながら、必要以上の急ぎ方でした。
これからもし乗ったドライバーが「勘違いスプリンター」だった時、後ろから肩を叩いて「普通に走る」ように抑えないといけない、そう心に決めました。
気がつけばかなりの人達が集まってきていました。
電話で助けを求めている人も数人います。
被害者のおばさんは、まだ路上で動けない状態でした。
しかしこんな場合、逆に動かさない方が良いことは皆分かっているんだと思います。
まもなく警察が来て現場は納まることになるかと思いました。
時間が気になります。
私がここに居ても何の役にも立たないと思ったので、助手席にそれまでのタクシー代を置き、反対車線で様子を見ていた別のタクシーに乗ってノイバイ空港へ向かいました。
当のドライバーは、余裕なさげにずっと電話を掛けていました。
大きなタクシー会社ですので、事態の収拾に向かって手を打つ段取りをドライバーの報告から下すんだろうと思います。
ぶつかった時のあの感触が、頭に染み付いて離れません。
震えが止まるまで、しばらく時間が掛かりました。
・・・そしてノイバイ空港に。
タクシーが3階の国際線の入り口まで送り届けてくれたとき、「やってしまった」ことに気がつきました。
「さっきの事故タクシーのトランクにスーツケースを入れたままだ・・・」
そうです。そのまま違うタクシーにスーツケースを移さないまま乗り換えてしまったことに気がついたんです。
思わず天を見上げてしまいました。
iPadの時刻を見ると搭乗手続きまで残された時間は少なくなっていました。
戻っていると時間が微妙に足りません。
また戻ったところで、そこに今もそのタクシーが居る保証はありません。
ここはHongちゃんに連絡して、タクシーが事故した場所と時間とタクシー会社を説明すれば回収できると判断し、現場に戻らないことにしました。
しかし・・・
携帯電話がありません。
3階の搭乗手続きカウンターまで来て、どうしようもなくベンチに座り込みました。
「iPadからメールするしか無いか・・・」
会社のスタッフ達から私の家族向けに、美味しいマンゴーを買ってくれていました。
少々の服とバッテリーの充電器。
これがスーツケースにあるもの全てです。
「見つかってもマンゴーは食べられないな」
嫁のあきれてため息をつく顔が頭に浮かびました。
まあ無くなってもそれ程実害のないモノばかりだったのでよかったです。
ただ・・・
更に恐ろしい事態が待ち受けていました。
取りいそぎ搭乗手続きをしようとベンチを立ち上がろうとしたとき、「やってしまった」ことに気がつきました。
「パスポートを会社の金庫に置いたまま・・・」
ああ、いつかやるかとは思っていましたが・・・
ここに来てとうとうやってしまったか。
しかし、考えられるあらゆるミスをまとめて吐き出している、俺は一体何をしているんだろう。
これはメールでなどと行ってる場合ではありません。
・・・ここから、神様の救いの手が私に差し出されます。
難しい顔をしている私に、前に座っていたベトナム人の若い男性が声を掛けてきました。
「あなたはどこへ帰りますか」
見ると旅行会社の添乗員のような30歳くらいの男性です。
上手な日本語で話し掛けてきました。
事故に合ってトランクにスーツケースを入れたまま違うタクシーでノイバイ空港に来てしまったこと、
パスポートを会社に忘れてしまったこと、
その人に話しても仕方がないのですが、
「何かが変わるかも知れない」
そう思ったのか、気がつけば思わずかっこ悪い失敗談を全てぶつけていました。
すると添乗員風のその男性が、
「ああ、その事故見た。今私達、その横通って来た」
野次馬でいっぱいになっているので、すぐに分かったみたいです。
周りのスタッフさん達と何やら私に対しての話をしているようです。
旅行の搭乗手続きのスタッフのようで、皆私のことを心配してくれている感じです。
私は意を決してその搭乗員風の男性にお願いしてみました。
「携帯をお借りできますか?」
当然のように貸してくれました。
「ああ、有り難い、助かる・・・」
それからHongちゃんにすぐ電話をし、全ての事情を伝えると、
「あなたoi・・・わかった。そこで待っていて。花ちゃんにパスポート持って行ってもらうから。
スーツケースは私に任しておいて」
頼もしきかな、エースHongちゃん。
後は、時間との闘いです。
待つしかありません。
添乗員風のその男性にお礼を言いながら携帯を返しました。
しばらくは待つしか無かったので、何となくその男性と話をすることに。
添乗員君:「日本のどこに帰る?」
私:「大阪です」
添乗員君:「おお、私コーチに行ったことある、仕事で」
私:「高知?何をしに?」
添乗員君:「押さえてね、さばいてね、切る、えーと、うなぎ」
私:「ああ、それって3年間の研修制度で行ったってこと?」
添乗員君:「はい、ケンシューセードです」
私:「へぇー、お店で働いたのね。じゃあお金たくさんできたでしょ?」
添乗員君:「へへ、ハノイで家建てた」
私:「おお〜そう!日本の研修制度でベトナムに家建てる人、結構多いよね」
添乗員君:「はい、でもお金全部使っちゃった。今サイフからっぽ」
私:「はは、そう。で、今は旅行の仕事しているの??」
添乗員君:「いえ、タクシーの運転手。これはアルバイト」
私:「・・・・・・」
日本のウナギのお店で、ずっとウナギをさばいていた添乗員君。
せっかく日本に渡って取得した技術が全く生かされていないのは、どういうこっちゃ。
ウナギのさばきという、あまりにピンポイントな仕事だからつぶしが利かなかったのかな。
でも彼の仕事のつぶしが利かなかったお陰で、私は今日非常に助かりました。
そうこうしている内に、花ちゃんこと橘(たちばな)君が私のパスポートを持って来てくれました。
「助かった・・・間に合った」
ノイバイ空港で私服を着て静かに私のパスポートを差し出した花ちゃん。
私には救世主メシアに見えました。
その瞬間をまるで計ったかのように花ちゃんの携帯が鳴りました。
Hongちゃんからです。
間に合ったかどうかの確認でした。
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休みにも関わらず、本当にドタバタさせてしまいました。
スタッフには毎度の事ながら感謝です。
鈍くさい上司でごめんなさいね。
今は日本の自宅でこの稿を書いています。
その後Hongちゃんからメールが届き、無事私のスーツケースは警察から届けられるとのことでした。
5月6日までスーツケースは鍵を持つ私が開けるまでは締め切ったままです。
マンゴーがどんな風になるか、想像するも恐ろしい限りですが・・・
それにも増して今回は恐ろしい体験をすることになりました。
「冷静な判断」と「日頃の備え」が出来ないことほど恐ろしいことは無い
痛感されられた一日でした。
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その後、また添乗員君が私の側に近づいてきました。
「あのー、名刺をください」
逆にこっちが名刺をもらい、お礼をしなければならないくらいでしたので、その場で渡すと、
「ああ、Kim Maですね。えーと・・・」
Kim Maにある何かを思い出そうとしている様子だったので、私がとっさに、
「LOTTE CENTER HANOIがあるとこね」
まさにその建物だったようで、手を叩いて、
「あーっそうそう。LOTTEのとこね。
あのー、もしよかったら、よろしくお願いします」
「???」
彼はまだ日系の会社に入れる一縷の望みを日本人の私にかぎ取ったのか、丁寧にぺこんと頭を下げてきました。
ローカルの新人さん枠は、既にTinhちゃんで埋められています。
「うちはうなぎ屋さんじゃないからね(笑)」
残念ながら無理な依頼でしたが、最後にベトナム人の心の温かさに触れることができ、また素晴らしいスタッフのサポートを受け、ほっこり幸せ気分に浸ることができました。
以上、隙だらけの日本人がベトナムの光と影を垣間見た一日のご紹介でした。
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