ハノイリビングの田口です。
ハノイに今お住まいの方なら知らない人はいないと思います。
今月11月1日(火)の午後2時、ハノイのCau Giay地区にある、Tran Thai Tong通りに面したカラオケ店から出火し、隣接する3軒の建物に燃え広がり、たくさんの犠牲者が出る大惨事となりました。
場所は、日本の皆さんならよくご存知の日本食レストラン「銀座」、まさに銀座とその隣接の建物だったんです。
4時間後に消し止められましたが、この火災で亡くなった人の数は、公称13人。
しかし、亡くなった人数が13人では効かないことも、ハノイ市民はほぼ全員知っています。
VIET JO ベトナムニュース:ハノイ:繁華街のカラオケ店で大火、13人死亡
火災が出たのが、お昼の14時過ぎ。
出火の原因が、また溶接の火花。
何度同じ過ちを繰り返すのか・・・
Keangnam Hanoi Landmark Tower(カンナム ハノイ ランドマーク タワー)でも昔、建築途中で火災があり、何人か亡くなっていますが、あれも溶接の火花が原因でした。
街中で足場に乗り、溶接をする際、日本であれば湿らせた不燃シートで養生してから行うのが当たり前の作業工程です。
しかし私はここベトナムハノイで、養生している溶接工をみたことがありません。
地面に火の粉がバチバチ落ちてきても、誰も注意をする者はいない。
「火の粉は燃えない」と思い込んでいるのでしょうか。
そしてこの悪習慣が仇となり・・・
出火したカラオケ店にいたお客さん、及びカラオケレディーが多数命を落とす羽目になった・・・ということです。
なぜ、死亡者が13人以上と言えるのか。
答えは簡単です。
当日、現場のTran Thai Tong通りに駆けつけた救急車の数を数えていた人がいます。
現場から次々と運び出されてくる遺体。
「1台の救急車に運び込まれた遺体が、たったの1体だったとしても、優に30人以上の遺体を搬送しているはずだ」
と終始現場を見ていた見物人が口々に語っています。
じゃあなぜ公式発表が13人なのか。
「カウントされては困る方々」が多数おられたようです。
昼の14時にカラオケ店でベトナム人の男性多数が、それ以上の数のカラオケレディ達を周りに侍らせ、カラオケに興じていた時に、火災が起きました。
あっという間に煙と炎に煽られ・・・
後は筆舌に尽しがたい阿鼻叫喚の地獄絵を、何人もの方に白昼目撃されることになります。
平日の真っ昼間から、たくさんの女性達を貸し切り、陶酔に耽ることのできるベトナム人となると、大体どれくらいのレベルの方々か、何となく想像はつきます。
もみ消しに躍起になるのは、当然のことかと。
ベトナム人の奥様は、総じて大変厳しい。
日本人の様に、接待で毎晩午前様など、こちらでは許されないことです。
また、ベトナム人男性も、家族・奥様を大事にします。
だから、昼に遊ぶ。
・・・神様があきれて罰を与えたとしか思えません。
今回の火災のお陰で、Cau Giay地区の人民委員会は、なんと管轄地域内の全てのディスコ・カラオケ店の営業を一時停止にしました。
そして消防基準を遵守しているか、一斉に調査を始めると言っています。
Cau Giay地区のカラオケラウンジは、日本人向けよりも韓国人向けラウンジの方が、数は圧倒的に多い。
「消防基準をチェックって、具体的に何を調べるの?」
私が知っているKim Maの日本人向けカラオケラウンジの経営者さんに聞いてみると、
「私の姉が経営している韓国ラウンジは、スプリンクラーを設置しないと店を再開できないと言われたから、今取り付けている」
なんと、今からスプリンクラーですか?
吹けば飛ぶような安普請アパートに、1フロア2部屋のカラオケ機材を押し込み、目一杯で回しています。
どこにスプリンクラーを這わせるスペースがあるのか。
また、そんなお金のかかる設備を、取り付けることのできる店など限られてきます。
Cau Giayエリアで発生したカラオケ火災のお陰で、同エリアのカラオケラウンジ店に激震が走っています。
まさに未曾有の災難、営業ができない状態、死活問題です。
カラオケラウンジ店で働く女性の大半は、まだ年端もゆかない大学生です。
若い人達はアルバイト感覚ですので、生活に致命的な影響はありません。
しかし問題は、家計をやりくりするために働いている半ば本業のラウンジレディーの方々です。
ここで少し私が知る、あるラウンジレディのお話を致します。
日本からたまに当社の社長がハノイにやってきます。
以前社長を連れて、日本人向けのカラオケラウンジに行ったとき、Chiさんという女性に遭いました。
英語がとても上手なChiさん。
スマホには日本語の歌のレパートリーがぎっしり記録されており、営業熱心さが伝わってくる真面目な方でした。
一生懸命歌を勧めてくるんですが、私は歌なんかよりChiさんがどんな背景の方で、何を考えてカラオケラウンジで働いているのか、知りたくて話をしていました。
私の拙い英語で聞き出せたのは、以下のようなことでした。
- 難関大学の大学院まで進み、Human Resourceの博士号を取り卒業したこと
- そのまま国営企業に入社、今まで辞めることなく8年間勤め続けていること
- 見た目は若く見えるけど、実は30歳超えで、5歳の息子さんが一人いること
- バツイチで、旦那さんからの仕送りも全くなく、実の母親と息子さん3人で小さなアパートに住んでいること
- 息子さんとお母さんを、彼女の腕一つで養っていること
- そして、安い国営企業のお給料ではやっていけないので、終わってからカラオケラウンジで働くようになったこと
こちらの離婚は、旦那側に慰謝料を請求できるケースなどほぼありません。
そんな甲斐性が無く、請求してもお金など期待できるレベルでは無いからです。
「あほな男を掴んでしまった私が悪い」
そう言い聞かせて諦めるしかありません。
バツイチでシングルマザーになると、本当にベトナムの女性は大変です。
子連れのバツイチ女性と、先ず結婚しようと考える男性が少なく、仮に結婚を考える男が現れても、その親が大反対します。
バツイチ女性は、自力で自立するしか、生きていく道がありません。
そんな背に腹はかえられない女性が、カラオケラウンジで働いているのもまた事実です。
そのChiさんから久しぶりに連絡が入りました。
どうも、日本人向けカラオケラウンジはお客様が集まらないため稼げず・・・韓国人向けラウンジへ移ったとのこと。
・・・なんと韓国ラウンジへ行ったのか。
荒くたく、お酒や関係を強要する韓国人相手のラウンジです。
しかし、ここベトナムでは日本人の10倍以上の韓国人がいます。
必然的に日本カラオケで稼げない人は、韓国ラウンジへ流れていく傾向が生まれています。
以前見せてもらった大学院卒業時のChiさんのスマホ写真を思い出しました。
大学院生キャップをかぶり、牛乳瓶の底のような大きなメガネをかけていますが、卒業証書を胸に抱き、希望に満ちあふれた光輝く笑顔がとても印象的でした。
「Cau Giay地区の韓国ラウンジは今営業できない。稼げないです・・・」
彼女は火災で命を失うことは無かったですが、従来の収入を稼ぐ機会を失っていました。
彼女もまた火災の犠牲者です。
以前、お店でChiさんから今勤めている国営企業の話を聞いたことがあります。
田口「8年勤めてお給料は大分上がった?」
Chiさん「ほとんど上がらない、でも私の後に入ってきた若い人達は、私を追い越して高いお給料もらっている」
田口「???どうして?」
Chiさん「私は上司にお金払っていないから」
田口「・・・」
Chiさんは社内で一番の古株で、所長さんの秘書のような役割です。
彼女がいないと回らない仕事がたくさんあるそうです。
しかし・・・
Chiさん「私のような貧乏社員はお金が払えないから出世できない」
田口「英語話せるんだから、外資企業に挑戦したらどう?」
Chiさん「今の生活で、夜の仕事が亡くなったら、私達食べていけない。外資企業って夜の仕事は禁止でしょ」
8年間のキャリアは、ある程度時間の融通が利くそうで、だから夜も働ける。
もちろん見つかったらやばいことには違いありません。
毎晩休み無しで、浴びるほど韓国焼酎を飲まされる日々。
一つ前に勤めていた韓国ラウンジのオーナーは、お客が求めれば体を許すことを強要してきたので、辞めて今のお店に移ったとのこと。
昼間の仕事一本にするには、その切り替わって直ぐの給料減をどう凌ぐか・・・
ここの答えが出せない間は、昼夜2足のわらじ生活に終止符を打つことはできません。
どこかで踏ん張らないと、彼女の顔が再び希望の光で輝く日はやってこないでしょう。
今回の火災で、明るみになったベトナム人幹部クラスの真っ昼間の醜態。
彼らが私達の知らないところで何をやろうが、関心はありませんが・・・
真面目にコツコツと働くベトナムの若者社員全員に、開かれた道を示せていないベトナム国営企業の幹部連中と、今回火災に遭った男連中と、なぜかダブって見えてしまうのは私だけでしょうか。
優秀なベトナムの若者達の目には、機会均等を貫く外資企業が魅力的に映っています。
そして将来のベトナムを支える力ある若者にとって、旧態依然とした国営企業は問題外の蚊帳の外です。
人材の集まらない国営企業には、当たり前ですがそれなりの理由があるのです。
しかし、ベトナムの基幹産業は、すべからく国営企業が担っています。
根が深いベトナムの問題です。
今回の火災で亡くなった数多くの若い女性達には、もう二度と希望の光を追い求めるチャンスはありません。
煙に巻かれ、熱さに耐えかね、窓から飛び降りる瞬間、彼女達の目に映った光は、どんなものだったのでしょう。
尊い無垢な若者達の英霊に対し、手を合わせたいと思います。
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